ヴィオラの今井信子氏、日本芸術院の会員に就任
安田真子(音楽ライター/オランダ在住)
クロンベルク・アカデミーでも定期的に指導にあたる今井信子氏(ヴィオラ)が、3月1日付で日本芸術院の会員に任命されました。
日本芸術院は、現在、美術や演劇、音楽などの芸術分野で著しい活躍をおさめた芸術家109名が、芸術文化に終身で貢献する会員として任ぜられている公的機関です。音楽部門の「洋楽」カテゴリーに登録されている現会員は、この度加わった今井氏と野平一郎氏(ピアノ)の他には、堤剛氏(チェロ)と栗林義信氏(バリトン)の4名のみ。物故会員には、小澤征爾氏、飯守泰次郎氏、江藤俊哉氏ら20名がいます。
同じ3月、今井氏は9日から14日にかけてオランダ北端のスヒールモニコーフ島で開かれた『スヒールモニコーフ・フェスティバル』でヴィオラ科の指導にあたりました。
同フェスティバルは年2回、春と秋に開かれています。春のイベントはマスタークラスを主軸とする若手演奏家のための催しです。100名ほどの若い音楽家と受講生が世界中から集まり、コンサートで活躍します。
創設時から今井氏が指導するヴィオラ科の他には、ヴァイオリン、チェロ、ピアノのクラスが設けられています。チェロ科は、今井氏と同じくクロンベルク・アカデミーでも指導するゲイリー・ホフマン氏、そして音楽祭創設者のイェルーン・ルーリング氏の2人が担当します。
今年は、イギリスやスイス、イタリアなどの欧州の国々のみならず、アメリカやカナダ、台湾などから受講生が集まりました。ハイレベルな演奏のレッスンに加えて、島の自然を生かしたアーティスト写真の撮影会や、演奏中の身体の使い方、ステージでの緊張の対策法などの専門家によるユニークなクラスも用意されていることが特徴です。
国際色豊かな学生たちは、集中できる静かな環境で演奏技術を高めながら、音楽家として活躍するために欠かせない多角的な学びや、同じ道を志す仲間たちとの交流を深めました。
同地のマスタークラスの指導の合間に、今井氏はこう語りました。
「学生に自律性を持って取り組んでもらえば、必ずうまくいくと私は考えています。私自身、先生がいなかったため、自由があることがどれほど大事なのかを分かっています。自分自身のものというのは、人から言われたこととは異なります。スヒールモニコーフ島のマスタークラスの学生も皆、私の性格をよく分かっているので、自発的に合奏練習をしたり、パーティーを開いたり……音楽を通して気持ちを分かちあい、音楽で繋がるということは一番強いものだと思います」
今井氏は、現代のヴィオリストのほとんどが影響を受けていると言えるほどの存在です。半世紀以上前から活躍する日本人女性ヴィオラ奏者としても他に例を見ません。2023年に傘寿を迎えてもなお、演奏家、そして指導者として、幅広い世代の音楽家や聴衆にとって、ますます稀有なアーティストでありつづけることは間違いないようです。
スヒールモニコーフ島でのマスタークラス受講生たちと今井信子(前列左から2番目)(c)Melle Meivogel